令和2年度 問題2

不動産の取得時効に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

 

ア 甲不動産を所有の意思なく占有していたAが死亡し、Bがその占有を相続により承継した場合には、Bは新たに甲不動産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみとめられ、かつ、Bの占有開始後、所有権の時効取得に必要とされる期間その占有を継続したとしても、自己の占有のみを主張して不動産の所有権を時効取得することはできない。

 

イ Aから甲不動産を買い受けてその占有を取得したがBが、売買契約当時、甲不動産の所有者はAではなくCであり、売買によって直ちにその所有権を取得するものでないことを知っていた場合には、Bは、その後、所有権の時効取得に必要とされる期間、甲不動産を継続して占有したとしても、甲不動産の所有権を時効取得することはできない。

 

ウ 甲不動産につき賃借権を有するAがその対抗要件を具備しない間に、甲不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合には、Aは、その後、賃借権の時効取得に必要とされる期間、甲不動産を継続的に用益したとしても、抵当権の実行により甲不動産を買い受けた者に対し、賃借権の時効取得を対抗することはできない。

 

エ Aが甲不動産を10年間占有したことを理由として甲不動産の所有権の時効取得を主張する場合、その占有の開始の時に、Aが甲不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であったことは推定されない。

 

オ 取得時効を援用する者が、時効期間の起算点を任意に選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることは許されない。

 

 

1 アイ   2 アウ   3 イエ   4 ウオ   5 エオ

 

 

正解 1

ア ×

相続人が、被相続人の死亡により相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであったときでも、相続人は民法185条にいう「新権原」により所有の意思をもって占有を始めたものというべきである。

 

イ ×

占有の開始の時に悪意又は有過失であっても、20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

 

ウ 〇

不動産につき賃借権を有する者は、抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ買受人に賃借権を対抗することができない。このことは、抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても異なるところはない。

 

エ 〇

占有者の善意は、推定されるから、時効取得を主張する者は、これを立証する責任を負わないが、無過失は推定されないから、時効取得を主張する者がこれを立証しなければならない。

 

オ 〇

時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効を援用する者において起算点を選択したり、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。