管理受託方式による賃貸住宅経営について

【行政書士西尾真一事務所】

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管理受託方式とは

管理受託方式とは、賃貸人との間で管理受託契約を締結し、管理受託契約に基づいて、建物・設備の維持保全、家賃、敷金等の管理に係る事務、賃貸借契約の更新に係る事務、賃貸借契約の終了に係る事務、賃貸人等からの問い合わせや管理報告、苦情対応などを行う方式です。管理業者は、賃貸借契約の当事者にはなりません。

 

管理受託契約について

賃貸住宅管理における受託業務の主な内容は、建物設備の維持保全、賃貸借契約締結後の入居者との関係における金銭の管理などの「事実行為」です。

 

委任者が「法律行為」をすることを受任者に委託し、受任者がこれを承諾することによって成立する契約を「委任」といい(民法第643条)、委任の内容が、法律行為ではない事務の委任(事実行為)である場合を「準委任」といいます。(民法第656条)

 

管理業者が賃貸人から代理権を授与され、建物の修繕のための工事請負契約などを賃貸住宅管理業者の名で発注するような場合は、「法律行為」の委託にあたります。

 

このように、賃貸人が管理業務を管理業者に委託することは、「委任」または「準委任」にあたります。

 

他人に対して何かの行為を依頼する契約類型として、民法では委任以外にも「請負」や「雇用」を定めています。

 

「請負」は仕事の完成を目的としており(民法第632条)、「委任」は仕事の完成ではなく、法律行為または事実行為をすることを委託しています。(委託されたことの完成が契約の内容になっているわけではありません。)

 

「雇用」は使用者の労働に従事する、すなわち使用者に従属することを要しますが(民法第623条)、「委任」における受任者は委任者に従属するわけではなく、委任者から独立の立場にあります。

 

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律では、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて行う賃貸住宅の維持保全(住宅の居室およびその他の部分について、点検、清掃その他の維持を行い、および必要な修繕を行うこと)を行う業務が、管理業務とされています。

 

また、この法律では、修繕が管理業務の内容とされており、管理受託契約は委任の性質だけを有するのではなく、請負の性質を併有することが想定されています。

 

管理受託契約に請負の要因を含む場合には、管理受託契約は、委任と請負の混合契約とういことになります。

 

委任契約の成立について

委任契約は、賃貸人と管理業者との合意で成立する諾成契約であり、民法上、書面での締結が義務づけられているわけではありません。

 

賃貸住宅管理業法では、管理業者は、管理受託契約を締結したときは、管理業務を委託する賃貸住宅の賃貸人(委託者)に対し、遅滞なく、必要事項を記載した書面を交付しなければならないとされています。

 

書面に記載すべき必要事項は、

①管理業務の対象となる賃貸住宅

②管理業務の実施方法

③契約期間に関する事項

④報酬に関する事項

⑤契約の更新または解除に関する定めがあるときは、その内容

 

受任者の善管注意義務

管理受託契約の受託者である管理業者は、どのように受託業務を処理すればよいのでしょうか。

 

これについて、民法は「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」と定めており、これは、「善管注意義務」と呼ばれています。

 

委任契約では、委任者は受任者を信頼して委任事務の処理を委託しています。そのため、受任者は、自らの財産を管理するのと同一の注意をもって管理するのでは足りず、善良な管理者の注意をもって管理することが求められております。

 

受任者は、無償で委任事務の処理の委託を受けても、この義務を免れることはできません。

 

受任者の自己執行義務

委任契約は、委任者は受任者を信頼して委任事務の処理を委任しています。

 

そのため、受任者は、原則として自ら委任事務の処理を行わなければなりません。

 

委任者の承諾なく、無断で第三者に業務を再委任することは委任者の信頼に反することになります。

 

しかし、賃貸住宅管理のように、委任事務のなかに入居者(賃借人)の募集や建物・設備の維持等、多岐にわたる業務が含まれている場合、すべての業務を受任者が行うことは現実的ではありません。

 

そこで、受任者は、委任者の承諾を得れば第三者に委任事務を再委任することができます。

 

賃貸住宅管理においては、受託者が第三者に再委任する場合、あらかじめ委任者である賃貸人から承諾を得る必要があります。

 

受任者の報告義務

受任者は、委任者の請求があればいつでも委任事務の処理の状況を報告しなければならず、委任の終了後は、遅滞なく委任の顛末を報告しなければなりません。

 

賃貸住宅管理業者にも、賃貸人に対し事務の報告義務があります。

 

賃貸住宅管理業法では、「賃貸住宅管理業者は、管理業務の実施状況その他の国土交通省令で定める事項について、国土交通省令で定めるところにより、定期的に、委託者に報告しなければならない。」とされています。

 

受任者の受取物の引渡義務

受任者は、委任事務を処理するにあたって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならず、果実を収受した場合も同様です。

 

賃貸住宅管理では、集金した賃料を賃貸人に引き渡す義務がこれに該当します。集金した賃料から利息が発生した場合、この利息は果実にあたるため、利息の引渡しも必要です。

 

そして、賃貸人に引き渡すべき金銭を自己のために消費したときは、その消費した日以降の利息を払うことを要し、なお損害があるときは損害も賠償しなければなりません。

 

受任者の報酬請求権

委任による報酬は、民法上は無償が原則であり、特約がない限り報酬請求権は当然には生じません。(民法第648条第1項)。

 

特約があれば、特約に基づいて報酬を請求することができます。

 

もっとも、商法では、商人が営業の範囲において他人のためにある行為をしたときは、相当な報酬を請求することができます。(商法第512条)

 

管理業者は商人ですので、管理受託契約において報酬について特約がなくても、相当な報酬を請求することが可能です。

 

受任者への報酬の支払時期

報酬の支払時期は、後払いが原則です。(民法第648条第2項)

 

受任者(管理業者など)は、委任事務を履行した後でなければ報酬を請求することができません。

 

期間をもって報酬を定めた場合は、その期間が経過した後でなければ報酬を請求することができません。

 

委任事務が中途で終了した場合の報酬

民法では、委任事務が中途で終了した場合であっても、委任者の責めに帰すことができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、および、委任が履行の中途で終了したときには、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとされています。

 

なお、委任者の責めに帰すべき事由によって委任事務の履行ができなくなったときは、受任者は報酬の全額を請求することができます。

 

費用の前払請求権、費用の償還請求権

委任事務を処理することについて費用を要するときは、受任者は委任者に費用の前払いを請求することができ、その場合には委任者は費用を前払いしなければなりません。

 

受任者が委任事務を処理するために必要な費用を支出したときは、委任者に対し、その費用および支出の日以降の利息を請求することができます。

 

また、受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担した場合、委任者に対して、自己に代わってその弁済をすることを請求することができます。

 

加えて、その債務が弁済期にないときは、委任者に対して、相当の担保を供させることができます。

 

そして、受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができます。